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第18話 爪の下の土

作者: なつめ
last update 公開日: 2026-07-27 21:00:05

 頬に冷たいものが触れていた。

 雨粒ではない。

 濡れた布でもない。

 土だった。

 鬼束美怜が目を開けると、見慣れた自室の天井が薄明かりの中に浮かんでいた。カーテンの隙間から朝の光が差し込み、壁へ細長い影を落としている。

 枕元では、スマートフォンの画面が明るく点灯していた。

 誰かが喋っている。

 音量は小さい。囁きに近い声が、途切れ途切れに聞こえてくる。

「……右」

「もっと、右」

「そこじゃない」

 子どもの声ではなかった。

 読み上げ機能の、温度のない合成音声だった。

 美怜は身体を起こそうとした。

 両腕へ鈍い痛みが走る。

「っ……」

 肘から先が重い。肩も、背中も、長く同じ動作を繰り返した後のように張っている。

 布団を捲った瞬間、美怜は動きを止めた。

 両足が泥だらけだった。

 素足の指から踵まで、黒い土が厚くこびりついている。乾いた泥がシーツへ剥がれ落ち、薄茶色の染みを広げていた。

 寝間着の膝にも土がついている。

 右膝の布は破れ、皮膚が赤く擦れていた。左の脛には草で切ったような細い傷が何本も走っている。

 両手を持ち上げる。

 爪の中へ、黒い土が詰まっていた。
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